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Interview

予測不能の未来を切り開く「考える力」

池尾 恭一

マーケティングマネジメント

池尾 恭一
現在のマーケティングを変えた3つの動き、変化がある一方で変わることのない原理原則。
MBAを通して養う予測不能の未来を切り開く「考える力」とは。

現代のマーケティングを変えた三つの動き

私はマーケティングの研究に長年携わり、中でも特に消費者行動との関連について専門に研究してきました。この分野における近年の動向を見ると、非常に興味深い現象が三つほどあります。

一つは「囲い込みからオープン化へ」という流通チャネルの変化です。従来の日本では、優れた流通チャネルや営業ネットワークを基盤とした販売力により、顧客を囲い込んで売っていくのが勝ちパターンでした。例えば大手家電メーカーなどに見られた「系列店」はその典型です。ところが現在は、コンビニや量販店などの流通チャネルが力を持ち、様々なメーカーやブランドの製品を一緒に売るようになっています。そうしたオープンな流通の下で、営業力よりも商品力、つまり消費者に直接訴えかける、とんがった、目立つ商品をいかに打ち出せるかが販売を左右するようになっています。

二つ目は「インターネットの影響」です。インターネットが持つ情報メディアとしての機能、そして流通チャネルとしての機能が、売り手と消費者の関係に劇的な変化をもたらしています。例えば、従来B to Bに特化していたメーカーが、インターネットを通してエンドユーザーに直接ものを売るようになった例は少なくありません。飲食店業界では、インターネットによって立地の重要性が低下したと言われましたが、スマートフォンの時代になると、現地を歩きながら店を検索する行動が広まり、再び立地が重視されています。店で見てからネットで買う「ショールーミング」や、逆にネットで見てから店に行く「ウェブルーミング」なども一般的になりました。技術の発達に伴って、販売のあり方が様々に変動している現実があります。

池尾 恭一教授

インターネットの動きの中で、マーケティング的なインパクトが大きいのはインスタグラムの登場でしょう。少し前の時代にパソコンのインターネットで投稿していた人々は、マーケットの平均よりもややマニアックな層でした。それが、インスタグラムが普及すると、とくにマニアでもない普通の若い女性たちが毎日店や買い物の写真を投稿し、まさにマーケットの目線で情報発信がなされるようになりました。メーカー側が機能性で売ろうとした商品が、「デザインが可愛い」から売れるといった意外な現象も起きています。

三つ目は「グローバルマーケティングの新展開」です。実は上述したインスタグラムもその動きに深く関わっています。画像中心で伝える形なので言語の壁を楽々と越え、フォロワー数が十万、百万というような「インフルエンサー」も登場しています。例えば海外旅行客のインバウンド観光の誘致などにおいては、彼らが大きな力を発揮します。

グローバルな視点からのものづくりも非常に重要になっています。というのも、日・米・欧の先進国とアジアなどの途上国のGDPを比較すると、為替レートで見ればまだ先進国が上ですが、購買力平価ではすでに途上国が上回っています。こうした国々の中で、購買力を持ち始めた中間層、とりわけ年間所得が2万ドル以下、つまり、日本より所得水準が低い人々に売れるものを作っていかなければなりません。

こうした状況下では、イノベーションの方向性も変わってきます。例えば、ガンを撲滅できる高価な薬よりも、ガンの薬の値段を劇的に下げるような技術革新、「フルーガル(倹約)・イノベーション」が重要になってきます。また、企業の意識も「利益が出たら社会に貢献すべき」という「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)、から、「社会に貢献しながら利益を追求する」すなわち「CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)」へ変化を迫られています。

「原理原則」を踏まえ「自分の頭で考える」

このように、今ビジネスの世界では、かつて誰も予測できなかった現象が次々と起きています。今後はAIの発達なども背景に、この傾向がますます顕著になっていくでしょう。今から十年後、二十年後に日本のビジネスが直面する環境を、従来の延長線上で理解するのは難しいわけです。

そうした今、ビジネスマンに何より必要なことは、これまでの知識やルールにとらわれず「自分の頭で考える」ことです。

ただし、これまでのことをすべて白紙にして考えよ、ということではありません。変化がある一方で、変わらないことも必ずあります。そこでは、「原理原則」を踏まえた上で、「自分の頭で考える」ことが重要です。

この二つは一見矛盾しているかのようですが、分かりやすい例はやはりインターネットでしょう。インターネットが出現した時、「すべてのものがインターネットに取って代わられる」と言った人もいましたが、実際にそんなことはありませんでした。と言って、影響をまったく無視できるかというとそれもあり得ない。「何が変わり、何が変わらないのか」を見極める必要があるのです。

池尾 恭一教授

先ほど述べたように、マーケティングとの関連でインターネットが果たす役割は主に二つあります。一つは流通機能で、もう一つは消費者に情報を提供するメディアとしての役割。ですからインターネットを活用したビジネスを考える際には、流通という現象の「原理原則」と、消費者が情報を探索する際の「原理原則」を理解する必要があります。そうした上で、「何がどう変わっていくのか」と自分の頭で考えることが大切です。

「原理原則」とは、人間やものの「本質」とも言えます。時代や状況が変わっても変わることのない「本質」を、過去の事実を踏まえて理解した上で、新しい時代に立ち向かっていく。これが「考える力」です。

現在は、AIが世の中を変えると言われ始めていますが、専門家に話を聞いてみると、結局AIの出来ること、出来ないことは明らかで、AIに「アイデア」は出せません。ただし、アイデアに対する良否の判断や現実化の方策といった部分は、どんどんAIに取って代わられるでしょう。そうした時も、「人間の持つ能力の本質とは一体何なのか」ということを押さえた上で、いろんなことを考えていけば良いのではないかと思います。

変化する現実の奥にある「不変」を見抜け

そして、この「原理原則」を踏まえて「自分の頭で考える力」を鍛錬しようという時、MBAは最適な場であると考えています。

MBAの授業でもテキストは使用しますが、実はそこに書いてあるのは、本当の「原理原則」ではないことが多い。「現在の現実を前提とした原理原則」なんです。読む側にとってはその方が分かりやすいですからね。ところが、予測不能な未来に対処するために求められる、つまり、環境や時代が変わっても変わることのない「原理原則」は、そうした「現実のフリル」を削ぎ落とした向こう側にあるのです。それを見抜けるような「考える力」を磨くためには、テキストを読むだけではダメです。様々なケースに当たって、議論し、考え、もがき苦しむ必要がある。

私の授業では、「常に疑え」というのが基本です。講師の言うこと、テキストに書いてあること、人の言うことを頭から信じてはいけない。それは思考停止に等しいことです。

実際、ビジネスの世界に正解などありません。講師の考えが正しいとも限らないし、そもそも色々な考え方が成り立つこともある。そこでは、受講生同士の議論が非常に重要になります。常に考え、自分の頭で納得するべきです。そのようにして、アカデミックに考え悩むことを通してしか「自分の頭で考える」力はつきません。

池尾 恭一教授

受講生の方々とは、プログラム修了後も交流が続くことが多いのですが、彼らを見ると、受講時にとことん突き詰めて考えていた方、論文執筆の際にもがき苦しんだ方はやはり、その後のキャリアにおいて大きなことを成すケースが多い印象があります。我々は、そうした力を身につけるための「場と素材」を提供していると考えています。

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こちらのインタビュー内容の全文は、当校のオリジナルパンフレットにて掲載をしています。
マーケティングマネジメント分野で近年注目されている動向について、池尾恭一が解説をしています。
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