企業が直面する課題が高度化する中で、法務の専門家にも経営的視点が求められています。今回は、「福祉分野に特化した弁護士法人」という独自のマーケティングを行う事務所に所属し、自身も経営弁護士として人事制度や研修制度などを整備する卒業生に『学びが即実務に活かせる』MBAの学びについてお話を伺いました。説明会の一部内容をご紹介します。
目次
卒業生プロフィール
弁護士法人 かなめ
パートナー弁護士 南川克博 様
司法試験合格後、企業法務専門の法律事務所に7年勤務し、上場企業や地元中小企業のコーポレートガバナンス、人事労務など企業法務全般を担当。その後「弁護士法人かなめ」ではパートナー弁護士として、法人経営にも参画しつつ、福祉事業者に対する幅広いリーガルサポートを行い、社会のインフラである福祉業界の発展に貢献できるよう日々奔走している。 2024年11月11日に共著「幼保事業者の重大事故・不適切保育対応」(中央経済社)が刊行。本書ではMBAで履修したシェアド・リーダーシップについて言及されている。
<略歴>
2005年 私立灘高等学校卒業
2010年 東京大学法学部卒業
2012年 神戸大学法科大学院修了
2014年 弁護士登録(67期)德永・松﨑・斉藤法律事務所 入所
2022年 弁護士法人かなめ 入所
2023年 本MBAプログラムにてMBA取得
<所属>
福岡県弁護士会 広報室、対外広報委員会
中小企業法律支援センター
福岡県企業法務研究会
NPO法人創造支援工房フェイス
星槎大学 研究倫理審査委員会
福岡県 保健環境研究所疫学研究倫理審査委員会
Q.MBAを取得しようと思った理由
私は弁護士として企業法務の分野でキャリアをスタートし、企業クライアントの法律相談や契約書チェック、訴訟対応など、様々な業務に携わってきました。しかし、実務を重ねる中で、法律以外の部分、特にビジネスそのものに対する理解が不足していることを強く感じるようになりました。クライアントに法的なアドバイスはできても、実際のビジネスがどのように展開されているのか、その中で自分がどのような提案ができるのか、という点で課題を感じていました。また、弁護士の数が増加する中、法律の知識や書面作成能力だけでは差別化が難しくなってきています。将来的な選択肢として経営者になることや独立することも視野に入れていた私にとって、法律の専門家としてだけでなく、ビジネスパーソンとしての素養を身につけることは不可欠だと考えるようになりました。このような課題意識から、MBAの取得を目指すことを決意しました。
Q.ウェールズ大学トリニティセントデイビッド(UWTSD)を選んだ理由
UWTSDを選んだ理由は大きく3つあります。1つ目は、土曜日に授業があることです。当時、アソシエイトとして働いていた私は、平日の仕事に大きな支障をきたさず学べる環境を探していました。土曜日開講という点は、仕事との両立を考える上で非常に重要なポイントでした。
2つ目は、オンライン受講が可能だったことです。私は福岡で働いており、学びの機会が限られていましたが、ちょうどコロナ禍の状況もあり、オンラインで受講できるUWTSDのMBAプログラムに大きな魅力を感じました。
3つ目は、修士論文がある点です。多くのMBAプログラムはカリキュラムを履修して修了する形式が一般的ですが、このプログラムでは論文を通じて成果物をきちんと形に残せる点に惹かれました。私は自分に強制力が働かないと取り組みづらいタイプなので、最初から論文が組み込まれていることは重要な選択理由となりました。特に若手弁護士として経験が浅かった当時、「形になる成果を残したい」という思いが強く、このプログラムを選んだ大きな理由の一つです。
Q.講義の感想
講義を受講して特に印象的だったのは、大きく2つの学びがありました。1つ目は「知らないことばかりに気づかされた」経験です。例えば、マーケティングの最初の授業では、弁護士業界で一般的な「広告を出す」や「リーガル系Webメディアに掲載する」といった単純な発想を超え、「そもそも商品をどのように設計していくのか」というマーケティングの本質を学びました。ビジネスの世界では当たり前のことかもしれませんが、私にとってはそのすべてが新鮮で、大きな発見でした。
2つ目は「知っていると思っていた分野でも新たな発見があった」ことです。例えば交渉学の授業では、弁護士として日々交渉を行っている私が、学問として体系的に学ぶことで新たな気づきを得られました。「この理論的背景があるからこそ、普段の行動やプランニングにはこうした意味があるのだ」と理解が深まり、実務にも生かせる視点を得ました。
Q.入学前にもっていたイメージと入学後のギャップ
プログラムがアカデミックな内容であることから、敷居が高く、ついていけないのではないかという不安を抱いていました。実際、最初は専門用語が多く、理解に苦労する場面もありました。しかし、講師の丁寧なサポートや、同じように悩む受講生との助け合いを通じて、次第に学びを深めることができました。特に、グループワークでの議論を通じて、さまざまな視点や経験を共有できたことは、大きな気づきとなりました。また、オンライン講義に対する不安もありました。Web会議システムでの受講により距離感が生じるのではないかと心配していましたが、実際には予想以上に充実したコミュニケーションが取れました。SNSグループが自然に形成され、活発な意見交換やオンライン飲み会が定期的に行われました。福岡在住の私も、可能な限り東京や大阪での交流会に参加し、受講生との深い交流を持つことができました。
アウトプットの機会については、想像以上に多いというギャップがありました。レポート課題や発表など、求められる成果物は決して少なくありませんでした。しかし、これらを通じて学びが定着し、より深い理解につながったと実感しています。また、学んだ知識を実務に活かせる機会も多く、理論と実践を結びつける貴重な経験となりました。
当初不安に思っていた「授業についていけるか」という心配は、むしろ逆に良いギャップとなりました。新しい知識を学ぶのは確かに大変でしたが、それ以上に既存の知識や経験を理論的に再構築できる機会となり、より深い理解と新たな発見が得られました。このプログラムを通じて、アカデミックな学びは決して遠い存在ではなく、実務に活かせる貴重な機会であると実感しました。
Q.土曜日受講、予習・復習などの時間確保のためのタイムマネジメント方法
私の場合は、仕事の波が忙しい時と忙しくない時の波があり、また子育て中でもありましたので、理想的なスケジュールとはいかないところがありました。基本的な時間の使い方として、土曜日は授業を受講し、日曜日にその復習をしたり次の予習をしたりという形で進めていました。平日については、子供のお迎えとかの作業を妻と分担していて、お迎えに行かない時、要するに残業できる時に学習時間を確保していました。大体、1週間に2、3日くらい、1日あたり1、2時間ぐらいは取ってやっていたと思います。
当時、子供は4歳で保育園に通っていましたので、どうしてもお迎えに行かないといけなくて、その後ご飯を一緒に食べたりとかもありました。ただ、妻と協力しながら時間を作るようにしていました。オンラインでの受講だったため、通学時間を学習時間に充てることができたのも助かりました。また、欠席した場合も録画視聴で対応できるため、柔軟な時間管理が可能でした。
共働きで子育て中という状況でしたが、家族の理解とサポートがあれば、十分に時間を作ることができると実感しています。大切なのは、限られた時間を最大限に活用する工夫と、家族との協力体制を築くことだと感じました。
Q.MBAプログラムで得たことや困難
成果として最も大きかったのは、他の企業の方々とのご縁です。ただし、これは単なるビジネス上の人脈という意味ではありません。社会人になってから学友を作る機会は少ないものですが、同じ目標に向かい、時には苦労を共にする中で、掛け値なしの友人関係を築くことができました。この仲間意識は今でも続いており、私にとってかけがえのない財産となっています。また、自分の中で「学びのサイクル」を確立できたことも、大きな成果の一つです。気になることがあれば関連する書籍を読み、問題点を把握し、さらに体系的な学習へと発展させる。このような学習プロセスをMBAで身につけました。授業では参考文献が提示され、それを読むことで理解を深め、さらに先生から推薦された論文などを通じて知識を広げていきました。この学習習慣のおかげで、ビジネス書や学術的な書籍に触れる機会が格段に増えました。
さらに、このプログラムを選んだ理由の一つでもある論文執筆は、大きな挑戦でした。学術論文を書くのは初めての経験であり、特に定量分析には苦労しました。アンケートデータを収集し、統計ソフトで相関関係を分析する作業は非常に大変でしたが、最後までやり遂げることができました。この経験は、今では大きな学びとなり、貴重な財産となっています。
Q.ご卒業後にどのようなビジネスや活動に取り組まれたか
私は現在、社会福祉事業者に特化したリーガルサポートを提供する弁護士法人に所属しています。この特化型のビジネスモデルは、MBAで学んだマーケティング戦略を実践できる良い機会となっています。多くの弁護士事務所が「何でも対応します」という包括的なサービスや、「企業法務」という広範な領域を扱う中で、私たちは業界を絞ることで専門性を高めています。その結果、依頼者から「この業界のことをよく理解している」という高い信頼を得ることができています。
現在は、パートナー弁護士として経営層の立場で組織運営にも携わっています。例えば、入所直後に人事評価制度の構築を担当しました。従来の弁護士事務所では個人の売上を重視する傾向がありましたが、私たちは組織としての成果を重視し、それぞれの役割に応じた評価を行っています。この制度設計には、MBAで学んだリーダーシップ論やヒューマンリソースマネジメントの知識が大いに役立ちました。
また、最近執筆した著書では、福祉事業者の組織強化についてMBAで学んだシェアドリーダーシップの理論を応用しました。このように、単なる法的アドバイスを超えて、組織づくりや危機管理についての支援ができるようになったことも、MBAでの学びの成果だと実感しています。
Q.MBAプログラムでの縁からつながった仕事
実は、同級生との縁から顧問契約をさせていただいたケースがあります。エグゼクティブ層の方が多いMBAプログラムの中で、私が弁護士として入学したので「じゃあうちの顧問弁護士になってよ」という話になりました。ちょうどビジネスのことを勉強している最中だったということもあり、在学中から契約が始まり、今も2年ほど継続してお付き合いをさせていただいています。また、弁護士としてMBAを取得している例が比較的少ないこともあり、相談を受けることもあります。MBAプログラムでできた人脈を通じて、様々なビジネスの相談や法的なアドバイスの機会をいただいています。
このように、MBAプログラムでの出会いは、純粋なビジネスの機会だけでなく、信頼関係に基づいた長期的なお付き合いにつながっています。特に、普段は接点を持ちにくい異業種の経営者の方々と深いつながりができたことは、とても貴重な経験となっています。
MBA取得を検討している方へのメッセージ
MBAプログラムへの投資は、キャリアにとって大きな決断になると思います。私も入学を決める際には、オンライン授業で高額な学費を払うことへの不安がありました。しかし、2年間の学びを終えた今、この投資は間違いなく価値のあるものでした。最も印象的だったのは、予想以上に充実した学びの機会です。オンラインでの受講でしたが、講義の質は非常に高く、受講生同士の活発な交流もありました。様々な業界で活躍するクラスメイトとの出会いと、彼らとの深い議論を通じて、新しい視点や考え方を得ることができます。私の場合は、そこからビジネスの機会も生まれ、今でも継続的なお付き合いが続いています。
時間の確保については、確かに課題となりますが、家族のサポートを得ながら工夫することで、充実した学習時間を確保することができました。そして、プログラムの集大成となる卒業式では、ウェールズという普段なかなか訪れる機会のない土地で、かけがえのない経験をすることができました。
皆様もぜひ、この貴重な機会に挑戦されることをお勧めいたします。