UWTSD卒業生学友会によるパネルディスカッションが2024年5月25日に開催されました。
テーマは「MBAからアカデミックな世界へ」。
MBA取得後にビジネスの世界からアカデミックの世界に進んだ卒業生が登壇し、
教育現場の課題などについて議論しました。ディスカッションでは、「学びのスタイルの重要性」「実践と理論のバランス」
「自己成長と自己効力感の向上」「心理的安全性の確保」など、教育のあり方に関する提言が示されました。
(左から)パネリスト:川瀬英司氏、福本直也氏、小山武志氏、ファシリテーター:石井美和氏
【前半】それぞれの現場(アカデミア)での課題
MBAでは自分で考えることが重要。
レクチャー中心の講義から実践重視の講義へ
元MBA講師、MBA PARTNERS株式会社代表取締役 川瀬英司氏
川瀬氏: MBAの講師として教えていたとき、最初は講義形式で知識を説明していました。 しかし、これはほとんど大学の講義と変わらず、ただ聞いているだけの生徒も多く、質問も意見も出ませんでした。 途中で「これはダメだな」と思い始め、講義はほとんどしなくなり、資料は全部作って生徒に渡しました。 つまり、勉強は自分でしてきなさいという形にしました。
最初からテーマを与え、例えばある自動車メーカーの課題分析をさせ、その問題点を見つけ、原因や解決策を発表させると、 皆の反応も良く意見も出しやすくなりました。 本来のMBAの勉強は双方向であるべきだと思っていたので、それが実現できたと思います。 自分で考えることが一番大事だと授業を通じて認識しました。私は教えただけでなく、ファシリテーターの役割を果たしたと思っています。
石井氏: やはり、学び方はすごく重要ですね。何を学ぶかではなくて、学び方がその後の成長に大きく影響すると感じています。 学び方という面で話が少し変わるかもしれませんが、 日本の方と海外の方の違いを感じており、特に発言する点で文化の違いがあり、議論の活発さにもそれが反映されています。 グローバルな企業になるほどその違いは無視できません。多様な環境でどうやって学び続け、成長するかがますます重要になってくると思います。
学生の学習意欲はなぜ低いのか。
問題意識を高めてモチベーションを引き出す重要性
駒澤大学経済学部非常勤講師、Veson Nautical合同会社勤務 小山武志氏
石井氏: 大学で日本の学生に教えている中で問題意識を教えていただけますか?
小山氏: 私は駒澤大学で教えていますが、学生によって問題意識とか理解力とか表現力の差は感じます。 初めはゼミに入ってる学生に教えていたのですが、ゼミに入っている学生はITの仕事をしたい、という目的が決まっているため、 分からないことがあったら自主的に質問をしますし、こちらも説明がしやすかったです。
しかし、途中から一般の経済学部の学生も入ってきて、同じようなことをやらせると、 何をやりたいかがよく分からない子が結構います。問題意識がどうしても低いわけです。
ただ、そういう学生も私が「これはどう思う?」と問いかけると、 目つきが変わってくることがあります。そういう、意識が変わるということがすごく重要だと思っています。
実際には磨けば光る玉なのに、モチベーションを自分で見つけられない学生が多いと感じています。 それは最近の教育制度の悪いところでもあると思いますが、答えは一つで、それが何点かしか評価しないわけです。 そうなると、極端なことを言うと「これの答えは何ですか?」と、いきなり答えを聞きに来る学生がいるんです。
でも、私は「社会に出ると答えは一つじゃない、複数ある場合もあって、 それを決めるのは、あなた達ですよ」と伝えます。考える力が重要だと話をしています。
職場での学びの場への参加促進は心理的安全性が鍵
元筑波大学統計チューター、外資系自動車部品メーカー勤務 福本 直也氏
石井氏: 福本さんは企業の中で教えていらっしゃいますが、いかがでしょうか。
福本氏: 企業での話をすると、どの企業でも学びを重視していると思いますが、私が勤務している会社でも従業員に学びの機会を提供しています。 正直な話、学びに来る人は毎回来ます。一方で、全然来ない人もいます。 企業はビジネスなので、利益が上がっている部門であれば教育への投資も積極的ですが、そうでない部門は教育費を抑えられてしまう問題もあるかと思います。
また、忙しい人は学ぶ機会があってもなかなか参加できないということも問題としてあります。 とはいえ、そういった事情がなくても、学びの場になかなか出てこない人もいて、毎回来るメンバーはほぼ一緒というのが現状です。 企業ですと、従業員に学びの機会を提供しても、学校とは違って「学びなさい」とは強制できない現実があります。 ですので、その課題としては、まず学ぼうとしている人たちに学びの場を提供することが大切です。 政府でもリスキリングの重要性が言われていますし、社内でも言われています。 例えばメカの機械工学的な知識で働いていた人が電気工学、電子工学の知識を必要とする場面では、学びの場に出てもらう必要がありますが、 学びに対する習慣がついていない人も多いです。
HRの担当者ともこの課題について話しており、学びの場に出てもらうためには心理的安全性を提供する必要があると考えています。 出てきてもらうこと自体がまだ課題であり、どうすれば良いのか答えが出ていない部分です。
【後半】アカデミアへの提言
MBA取得の本当の価値は実力を上げて結果を出すこと
石川氏: 2:6:2の法則がありますが、私が勤務している会社でも、自分からしっかり意見を言える人が2割くらいいればいいかなという考え方はあると思います。 しかし、企業がもっと競争力をつけていくという意味では、6の上積み、なんなら6ぐらいの割合まで、そういった自己発信型の人を増やしたいという思いがあります。 そういう意味で、今話があったように、何を学ぶかだけでなく学び方が重要なポイントになるんじゃないかと思いました。そういった学びの場について、アカデミアの世界に何か提言するとしたら、どんな点を挙げられるでしょうか。
川瀬氏: MBAを勉強されている方で、時間とお金をかけてMBAを取得して、それを人事に「取得しました」と言うだけの目的だったら、こんなもったいないことはありません。 そうではなくて、自分の実力を上げて結果を出すことが重要です。ビジネスもそうですけど、社会全てがそうかもしれませんね。 特にビジネスでは、答えが分かるまで待っていたら意思決定が遅すぎます。まだ答えも分からない時に決めなくてはいけないことがほとんどです。 その時に決められるかどうかっていうことですね。それだけ自分を養ってるか、鍛えてるか、ここを一番言いたいですね。そうでないといい結果は出せません。
松下幸之助の話になりますが、彼は60%いいと思ったら決めろと言っていました。そうでないと組織が動けないからです。 でも60%だと失敗する可能性も非常に高いです。それでも失敗してもいい、それよりも動かないとダメなんです。 失敗したら何が原因で失敗したか分かるからそれを直せばいい、これが松下幸之助の偉かったポイントの一つです。
ですから、いい教育を提供するだけではなくて、実践力も学びの中に伴っていないといけないと本当に感じます。
国家単位での教育の重要性。
日本文化が世界に与える良い影響
石井氏: 繰り返しになりますが、やはり、ただ学ぶだけじゃなくて、実践に活かせる学びを得ているかどうかが非常に重要ということですね。 私たちも、つまり企業の内部における社内スクールでも、それがすごく重要だと実感しています。 皆さんはいかがですか?アカデミアの今後について、ご意見をお聞かせください。小山氏: 結局、教育とか研究は、次世代のために新しいことを作ることだと私は思います。 私も還暦を過ぎてなおさらそう感じますが、残すものがないといつかは消えてしまいますが、文化は残りますよね。要するに、知識とか教育ってそういうことだと思います。 そのためには国での教育が必要だと思います。なぜかというと、国家という単位じゃないときちんとした教育や研究はできないからです。 日本の社会や文化が良くなれば、結果的に、他の国にも良い影響を与えるんじゃないかと思います。 私は海外に友人がたくさんいるので、なおさら実感としてあります。
また、良い影響を与えることは、我々一般人レベルでも発信できることがあると思います。 それが多分、私のキーワードである「好奇心」です。好奇心を持つことで新しいことが始まる、それが新しい発明やイノベーションにつながるかもしれない。 海外の仲間たちを見ていると、ビジネスに行ってまた大学に戻って、またビジネスに行って大学に戻る、そういうことを繰り返す人もいます。 だから、無理にアカデミアとかビジネスとかを分けずに、他の研究も含めて広い視野でやりたいことをやって進めていくことが重要だと思います。
好奇心が生む多分野への興味と成長
石井氏: 私も、社内スクールではキュリオシティをすごく重要視しているんですが、その辺りについて福本さんはいかがでしょうか?福本氏: 好奇心に関してですが、私はすごく物事を知りたいという気持ちが強くて、そもそもエンジニアだったのにマーケティングに興味を持って、 その結果、組織論や組織心理、教育心理、認知心理など、いわゆる心理学に興味を持つようになりました。 それほどアカデミックではありませんが、一般的な情報を読んだり、論文を読んだりすることで、自分の仕事がより良くなるんじゃないかと考えています。 これは多分、好奇心から来るもので、より良くなりたいという気持ちと、それに伴う知識が必要だという考えからです。
MBAの時はスクールに通いましたが、今は検索エンジンで調べたり、AIのようなものもありますので、基礎情報は簡単に手に入れることができる時代です。 学びやすい時代にいるので、好奇心があったらまず調べてみる、一歩踏み出すことが大事だと思います。
学ぶ中で、心理的安全性も重要です。学びは傷つきでもあるので、傷ついても大丈夫な環境を整えることが重要です。 これが心理的安全性であり、傷つかないことではなく、傷ついても大丈夫という環境が必要です。 これにより、学ぶことへの二の足を踏む人たちにも勇気を与えられると思います。
登壇者紹介
パネリスト川瀬英司 氏(東京15期生)
松下電器産業株式会社(現パナソニック)の電子部品実装生産システム、自動車電装部品・産業部品・部材、アーク溶接ロボットシステムなど、 主にグローバル自動車電装メーカー向けに開発。海外事業経験21年(イギリス11年、アメリカ3年、ドイツベースでヨーロッパ大陸全域7年)。 定年退職後、本プログラムに入学。
小山武志 氏(東京18期生)
Veson Nautical合同会社勤務の傍ら、駒澤大学経済学部非常勤講師。信越ポリマー株式会社、外資系メーカー、 国内システムインテグレータ、外資系コンサルティングファームで業務系システムやインフラストラクチャ管理の職種を経験。 マレーシア5年、アメリカ3年の駐在経験あり。 会計、物流、生産管理、航海収益などの企業システムをビジネスとアカデミックの視点から興味を持つ。 駒澤大学では企業の基幹系システムを題材とした授業を行う。日本開発工学会理事、経営情報学会会員。 京都情報大学院大学で情報技術修士(専門職)取得。
福本直也 氏(東京4期生)
外資系自動車部品メーカー勤務。株式会社IHIをはじめ日系・外資系メーカーなどでエンジニアとして製品開発に従事。 現在は、自動運転に関する技術調査や、自動車の安全を確保するためのプロセス推進に携わる。 副業として筑波大学で統計チューターを11年ほど務めていた。現在は、社内トレーニングや社外向け講習会の講師を務める。 トレーニング講師を務めた関係で、学習心理学について興味を持ち、社内で自主勉強会を主催して同僚と学習行動について理解を深めている。 九州大学大学院で工学修士を終了後、本プログラムでMBA取得。組織心理学で修士論文を執筆。 ビジネスコーチング(国際コーチング連盟認定)、ファシリテーター(社内認定)などの資格を保有。
ファシリテーター
石井美和 氏(東京29期生)
TOTO株式会社人財本部経営塾塾長。大学で建築、インテリアを学び新卒でTOTO株式会社にインテリアコーディネーターとして入社。 その後、営業職へ異動、社内初女性管理職に就任。同時期に社内大学経営塾の受講を経て、 人財本部 経営塾に異動し現在に至る。経営塾はサクセッションスキーム全般の管理を行い、 一環として社内スクールにて経営学を中心としたプログラムを企画運営、社外講師のアサイン・アテンドを行う。 自身も講師として講義を担う。人材育成学会会員。